音楽の中に沈んでいるのだった 僕は失意の中で それを聴くのだった 忘れていた それは僕じゃなくて やさしい風だった それは僕じゃなくて 忘れていた 僕は失意の中で 音楽に沈んでいるのだった それは僕じゃなくて あたたかい声だった その何かも届かないところで 沈み込んで冷たく固まっている 魂だからこそ 聴こえるのだった 僕は失意の中でいつもずっと それは僕じゃなくて
水が流れる先を探して隙間から隙間へとたどって流れていくように人生を生きてきた。傾きがあるからこそ次の場所に進めたのかもしれない。ずいぶん長い下り坂をくだってきたようだ。あちこちに曲がりながら流れやすい場所を探しながら。気がついたらこんな場所にいた。最初と今のつながりを辿ってもどこでどうやってここまでつながってきたのかわからない。でも植物の根が次々に分岐しながら広がるように時間は流れていく。途中で硬い石にぶつかればそこでまた分岐して先へ先へと水のある場所を求めて進んでいく。その水がどこに送られているのかも知らない。今ごろ地上では輝かしい太陽の光の下で花を咲かせているのかもしれない。冷たい雪の下で春を待っているのかもしれない。でもそんなことは知らない。今見えるのはどこまでも続く土の中の暗闇と時々ぶつかる石ばかりだ。今もまた石にぶつかって分岐して進んでいく。今いるのはあるいはこちらの根かもしれない。あるいはあちらの根かもしれない。分岐して土の暗闇の中へ進んでいったのはもしかしたら自分ではないだろうか。深い深い土の暗闇の中で触れあった水に手を添えてそっと抱きしめて溶けあう。 2018.12.18 him&any ©︎2018 him&any